事務所が手狭になった、家賃を見直したい、社長の自宅から事務所に移したい――会社が本店を移転する理由はさまざまです。
本店を移転すると、法務局での登記に加えて、税務署、都道府県、市区町村、年金事務所、労働基準監督署、ハローワークと、多くの窓口への届出が必要になります。しかも、それぞれ期限が異なります。
この記事では、本店移転の手続きを「移転前に決めること」「登記」「各役所への届出」「移転費用の経理」の順に整理します。
この記事でわかること
- 定款変更が必要になるケース
- 本店移転登記の期限と登録免許税
- 税務署・自治体・社会保険・労働保険への届出と期限
- 礼金や原状回復費用など、移転費用の経理処理
1. 移転前に決めること:定款と社内の決議
最初に確認するのは、定款に記載されている本店の所在地です。多くの会社の定款では、本店の所在地を「大阪市」のように市区町村までしか記載していません。
| 移転先 | 必要な手続き |
|---|---|
| 同じ市区町村の中 | 定款の変更は不要。取締役会(または取締役の過半数)で、新しい住所と移転日を決定 |
| 別の市区町村 | 定款の変更が必要。株主総会の特別決議を行う |
賃貸住宅の場合、賃貸借契約で事務所としての利用が禁止されていることがあります。登記の前に契約内容を確認しておきましょう。
2. 本店移転の登記
本店を移転したら、移転した日から2週間以内に、法務局で本店移転の登記を申請します。期限を過ぎると、代表者が過料を科されることがあります。
登録免許税
| ケース | 登録免許税 |
|---|---|
| 同じ法務局の管轄内での移転 | 3万円 |
| 管轄の違う地域への移転 | 6万円(旧管轄・新管轄で3万円×2件) |
管轄外への移転では、2件の申請書を、元の本店を管轄する法務局にまとめて提出します。会社の印鑑を使っている場合は、新しい管轄の法務局への印鑑の届出も必要です。
登記が完了したら、新しい住所が記載された登記事項証明書を取得しておきましょう。この後の届出の多くで必要になります。
3. 税務署への届出
| 書類 | 提出先 | 期限 |
|---|---|---|
| 異動届出書 | 移転前の所轄税務署 | 速やかに |
| 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 | 税務署 | 移転日から1か月以内 |
以前は移転前と移転後の両方の税務署に異動届出書を提出する必要がありましたが、2023年1月以降は、移転前の所轄税務署への提出だけでよくなりました。
異動届出書は法人税・消費税で共通の様式です。消費税の欄にもチェックを入れて提出すれば、インボイスの登録事項の変更届を別に提出する必要はありません。法人の本店所在地はインボイスの公表事項ですので、提出漏れに注意しましょう。
管轄の違う地域へ移転した場合、届出の後は、申告書の提出先や税務署からの書類の送付元が、移転後の税務署に変わります。
4. 都道府県・市区町村への届出
法人住民税・法人事業税の関係で、都道府県と市区町村にも異動の届出をします。提出先の窓口・期限・添付書類は自治体ごとに定められているため、それぞれ確認が必要です。
- 別の都道府県・市区町村へ移転する場合は、移転前と移転後の両方に届け出る
- 地方税の電子申告システム「eLTAX(エルタックス)」で、複数の自治体にまとめて届け出ることも可能
なお、年の途中で別の市区町村に移転した場合、その事業年度の法人住民税を、移転前と移転後の自治体に分けて申告することがあります。分け方は、事務所ごとの従業員数や在籍した月数などを基準に計算します。
5. 社会保険・労働保険の届出
| 提出先 | 書類 | 期限 |
|---|---|---|
| 年金事務所 | 適用事業所所在地変更届 | 移転日から5日以内 |
| 労働基準監督署 | 労働保険 名称、所在地等変更届 | 移転日の翌日から10日以内 |
| ハローワーク | 雇用保険 事業主事業所各種変更届 | 移転日の翌日から10日以内 |
- 健康保険組合に加入している場合は、組合への届出も必要
- 管轄が変わらない場合でも、住所変更の届出は必要
- いずれも登記事項証明書などの添付が必要
6. その他の手続き
- 許認可(建設業、飲食店など)の変更届 ※業種によって期限が短いものがあるため事前に確認
- 銀行、リース会社、取引先への住所変更の連絡
- 名刺、ホームページ、請求書、封筒などの住所変更
7. 移転費用の経理処理
| 費用 | 経理処理 |
|---|---|
| 旧事務所の原状回復費用 | 修繕費として、その期の経費 |
| 引越し費用 | その期の経費 |
| 旧事務所の内装・設備(償却途中) | 取り壊した時点の帳簿価額を除却損として経費 |
| 新事務所の礼金(20万円以上) | 繰延資産として、原則5年(契約期間が5年未満ならその期間)で償却 |
| 新事務所の礼金(20万円未満) | その期の経費 |
| 敷金 | 資産として計上(返還されない部分は経費へ) |
まとめ
- 別の市区町村へ移転する場合は、株主総会の特別決議で定款を変更する
- 本店移転の登記は2週間以内。登録免許税は管轄内3万円、管轄外6万円
- 税務署への異動届出書は移転前の税務署へ。消費税欄にチェックすればインボイスの変更届を兼ねられる
- 社会保険は5日以内、労働保険・雇用保険は10日以内
- 礼金は20万円以上なら繰延資産として分けて経費にする
本店移転は手続きの数が多く、窓口も期限もばらばらです。移転が決まった段階で、早めに準備を始めましょう。