「新しい会社を作ろうと思うが、今の会社が100%出資するのがいいのか、社長個人が出資するのがいいのか迷っている」――顧問先の皆さまから、よくいただくご質問です。
今の会社が100%出資すれば、新しい会社は「子会社」になります。社長個人が出資すれば、今の会社と新しい会社は、同じ株主を持つ「兄弟会社」になります。どちらを選ぶかで、利益の集まる場所、税金のかかり方、将来の売却や事業承継が変わります。
この記事でわかること
- 出資するお金の出どころによる税負担の違い
- 新しい会社の利益(配当)の行き先と課税
- グループ法人税制・中小法人の特例・消費税の違い
- 将来の売却・撤退、事業承継から見た選び方
1. 出資するお金の出どころ
| 出資者 | 出資するお金 |
|---|---|
| 今の会社(子会社になる) | 会社の預金。法人税等は払った後だが、社長個人に移すときの所得税はかかっていない |
| 社長個人(兄弟会社になる) | 個人の預金。役員報酬や配当として受け取り、所得税・住民税を払った後のお金 |
手元の資金が会社に多くあり、個人にはあまりない場合は、会社が出資するほうが税負担の面で効率的です。個人で出資するために会社から多めに役員報酬や配当を出すと、その分だけ個人の税負担が増えます。
2. 新しい会社の利益の行き先
| 項目 | 子会社 | 兄弟会社 |
|---|---|---|
| 配当の受け取り手 | 親会社 | 社長個人 |
| 配当にかかる税金 | 100%子会社からの配当は全額益金不算入(法人税法第23条)。源泉所得税もかからない | 20.42%の源泉所得税。確定申告では原則として総合課税となり、他の所得と合わせて累進税率で課税(配当控除あり) |
子会社なら、グループの中で税負担なく資金を移せます。兄弟会社では、所得の多い方ほど配当の税負担が重くなります。
利益を会社に残して再投資したいなら子会社、個人の手元に資金を集めたいなら兄弟会社、という整理ができます。
3. グループ法人税制の適用の違い
グループ法人税制は、100%の資本関係(完全支配関係)があれば強制的に適用されます。この判定には個人も含まれるため、社長とその親族が100%保有する兄弟会社も、子会社と同じく完全支配関係にあります。
| 取扱い | 子会社(法人による完全支配関係) | 兄弟会社(個人による完全支配関係) |
|---|---|---|
| 帳簿価額1,000万円以上の土地・固定資産などをグループ内で売買したときの譲渡損益の繰延べ | 適用あり | 適用あり |
| 寄附金・受贈益 | 寄附をした側は全額損金不算入、受けた側は全額益金不算入 | 適用なし。受けた側の会社で受贈益として課税される |
兄弟会社の間で、一方の会社が他方の借入金を免除したり、無償で資産を移したりすると、受けた側の会社で受贈益に課税されます。兄弟会社の間の取引は、子会社以上に時価での取引を意識する必要があります。
4. 中小法人の特例と消費税
- 中小法人の特例:子会社の場合、親会社の資本金が5億円以上だと、子会社の資本金が1億円以下でも、軽減税率や交際費の定額控除などの中小法人の特例が使えない。中小企業の多くは該当しないが、確認は必要
- 消費税の免税:新しく設立した会社は、原則として最初の2年間は基準期間がないため免税事業者になれる。ただし、50%超を出資する会社などの課税売上高が5億円を超える場合は「特定新規設立法人」として免税にならない
特定新規設立法人の判定は、個人とその親族などが支配する会社の売上も含めて行うため、個人で出資しても免税を避けられない場合があります。なお、インボイス登録をする場合は課税事業者となるため、免税の有無の影響は小さくなります。
5. 将来の売却と撤退
| 場面 | 子会社 | 兄弟会社 |
|---|---|---|
| 第三者に株式を売却する | 親会社が売却し、譲渡益に法人税等がかかる。売却代金は親会社に入る | 社長個人が売却し、譲渡益に20.315%の分離課税。売却代金は直接、個人の手元に入る |
| 事業がうまくいかず撤退する | 一定の要件のもとで、子会社の未使用の欠損金を親会社が引き継げる | 個人で出資した株式の損失は、他の所得と相殺することが難しく、税務上のメリットを受けにくい |
リスクの高い新規事業は子会社、将来、個人として売却する可能性がある事業は兄弟会社、という見方もできます。
6. 事業承継から考える
子会社の場合
新しい会社の価値は、親会社の株価に含まれます。グループ全体の支配権を親会社の株式でまとめて承継できる反面、子会社の価値が大きくなると親会社の株価も上がります。また、親会社の資産に占める株式の割合が50%以上になると、株式保有特定会社として株価が高く評価されることがあります。
個人で出資する場合
出資する人を社長ではなく、後継者にするという選択肢があります。後継者が最初から株主になれば、新しい会社の将来の成長による株価の上昇は、後継者の財産として生まれます。社長の相続財産を増やさずにすむため、承継の面では大きな効果があります。
後継者が出資する資金の出どころや、会社ごとに株主がばらばらになることによる管理のしやすさも、あわせて考える必要があります。
まとめ
- 資金が会社にあり、利益を会社に残して再投資するなら、会社による出資が効率的。100%子会社からの配当は全額益金不算入で、源泉所得税もかからない
- 兄弟会社にもグループ法人税制は適用されるが、寄附金・受贈益の取扱いは適用されず、受贈益に課税される
- 新規事業の撤退リスクが高いなら子会社、個人として売却する可能性があるなら個人出資が向いている
- 事業承継を考えるなら、後継者が出資する方法も検討の価値がある
出資者は、設立した後に変えようとすると、株式の売買や組織再編が必要になり、税負担や手間がかかります。設立前の段階で、事業の目的と将来の姿を整理しておきましょう。