子会社の業績が伸びず、親会社からの貸付金が何年も返ってこない――グループ経営では、よくある悩みです。子会社は借入金を抱えたまま債務超過になり、取引先や金融機関からの見え方も悪くなります。
貸付金を整理する方法としては、親会社が貸付金を放棄する「債権放棄」と、貸付金を子会社の株式に振り替える「デット・エクイティ・スワップ(DES)」があります。DESは、税務上は貸付金という資産を子会社に出資する「現物出資」として扱われます。
同じ「貸付金をなくす」でも、どちらを選ぶかで親会社と子会社の税金は大きく変わります。この記事では、具体的な数字を使って比べていきます。
この記事でわかること
- 100%子会社への債権放棄が寄附金になる場合の取り扱い
- 再建支援として債権放棄が認められる場合の取り扱い
- 適格現物出資によるDESで、子会社に課税が生じないしくみ
- DESを選ぶときに確認しておきたい注意点
1. 前提となる事例
次のような事例で考えます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 親会社Aと子会社Bの関係 | どちらも法人で、AがBの株式を100%保有(完全支配関係) |
| AからBへの貸付金 | 5,000万円 |
| 子会社Bの状況 | 債務超過。税務上の繰越欠損金が3,000万円 |
親会社Aは、この5,000万円の貸付金を整理したいと考えています。以下、債権放棄をした場合と、DESをした場合を順に見ていきます。
2. 債権放棄①:寄附金になる場合
親会社Aが5,000万円の貸付金を放棄すると、子会社Bでは借入金がなくなるため、会計上は債務免除益5,000万円を計上します。
税務上は、この債権放棄が「寄附金」にあたるかどうかで扱いが分かれます。特に理由のない債権放棄は、親会社から子会社への寄附金と判断されます。
寄附金にあたる場合、法人による完全支配関係がある会社の間では、特別なルールが適用されます。
| 会社 | 税務上の取り扱い |
|---|---|
| 親会社A | 寄附金5,000万円の全額が損金にならない |
| 子会社B | 受け取った利益5,000万円の全額が益金にならない |
子会社Bに課税は生じませんが、親会社Aも経費にできません。子会社Bの繰越欠損金3,000万円は、使われずにそのまま残ります。
このケースでは、親会社Aで、子会社株式の帳簿価額を修正する「寄附修正」という税務上の調整が必要になります。申告書の別表での調整を忘れないようにしましょう。
3. 債権放棄②:再建支援として認められる場合
債権放棄が、子会社の倒産を防ぐための合理的な再建計画にもとづくものである場合は、扱いが変わります。法人税基本通達では、子会社の再建のためにやむを得ず行う債権放棄で、合理的な再建計画にもとづくものなど、相当な理由があるものは寄附金にあたらないとしています。
| 会社 | 税務上の取り扱い |
|---|---|
| 親会社A | 5,000万円を損金にできる |
| 子会社B | 債務免除益5,000万円が益金になり、法人税の対象になる |
子会社Bは繰越欠損金3,000万円を差し引けますが、残りの2,000万円には課税されます。さらに、中小法人以外の会社では、繰越欠損金で控除できるのは原則として所得の50%までという制限もあります。
再建支援としての債権放棄は、親会社にとっては有利ですが、子会社の繰越欠損金を超える部分には課税されます。グループ全体での税負担で判断することが大切です。
4. 適格現物出資によるDESのしくみ
そこで選択肢になるのがDESです。親会社Aは、子会社Bへの貸付金5,000万円を子会社Bに現物出資し、その対価として子会社Bの株式を受け取ります。
DESは、資産を出資する現物出資の一種です。次の条件を満たす場合は、「適格現物出資」に該当します。
- 100%の完全支配関係がある会社の間で行う
- その完全支配関係が、今後も続く見込みがある
- 対価として、株式だけを受け取る
適格現物出資では、出資した資産は、出資する側の帳簿価額のまま移転したものとして扱われます。時価ではなく、帳簿価額で引き継ぐということです。
5. 適格現物出資の場合の税務処理
事例に当てはめてみます。
| 会社 | 税務上の取り扱い |
|---|---|
| 親会社A | 貸付金5,000万円が子会社株式5,000万円に置き換わる。帳簿価額のままの移転なので、譲渡損益は生じない |
| 子会社B | 自社に対する債権5,000万円を帳簿価額のまま受け入れる。債権と借入金が同じ会社に帰属して両方とも消滅し、差額が生じないため債務消滅益は生じない。資本金等の額が5,000万円増える |
受け入れた債権5,000万円と、消滅する借入金5,000万円が同じ額なので、子会社Bに課税は生じません。債務超過は解消に向かい、繰越欠損金3,000万円もそのまま残るため、今後の黒字と相殺できます。
親会社Aが貸倒引当金などで貸付金の帳簿価額を下げていた場合や、第三者から安く買い取った債権だった場合など、帳簿価額が額面より低いときは、その差額が子会社Bの債務消滅益になります。また、会計上は債権を時価で受け入れるなど、会計と税務の金額が異なることがあり、その場合は申告書での調整が必要です。
6. 3つの方法の比較
| 方法 | 親会社A | 子会社B |
|---|---|---|
| 債権放棄(寄附金) | 損金にならない | 益金にならない。繰越欠損金は残る |
| 債権放棄(再建支援) | 損金になる | 債務免除益に課税(繰越欠損金を超える2,000万円) |
| 適格現物出資によるDES | 損益なし(株式に置き換わる) | 課税なし。繰越欠損金は残る |
7. DESを選ぶときの注意点
資本金が増える
会社法では、出資を受けた財産の額の原則として2分の1以上を資本金にする必要があります。事例では、少なくとも2,500万円が資本金になります。資本金が1億円を超えると、中小法人の特例が使えなくなり、外形標準課税の対象になることもあります。
法人住民税の均等割が上がることがある
均等割は資本金等の額などによって段階的に決まるため、DESで資本金等の額が増えると、毎年の均等割が上がることがあります。
手続きが必要
DESは募集株式の発行として、株主総会の決議や登記が必要です。また、適格現物出資を行った場合は、組織再編成に関する明細書を法人税の申告書に添付します。
100%の関係でない場合は非適格になる
完全支配関係がない場合や、関係が続く見込みがない場合は、非適格の現物出資になり、債権を時価で受け入れます。債務超過の子会社への債権の時価は額面を下回るため、その差額に債務消滅益が生じます。
まとめ
- 100%子会社への債権放棄が寄附金にあたる場合、親会社は損金にならず、子会社は益金にならず、子会社の繰越欠損金は残る
- 合理的な再建計画にもとづく債権放棄は、親会社で損金になる一方、子会社では債務免除益に課税されることがある
- 適格現物出資によるDESでは、債権が帳簿価額で移転して消滅するため、帳簿価額と額面が同じなら子会社に債務消滅益は生じない
- DESでは資本金等の額が増えるため、資本金1億円の基準、外形標準課税、均等割への影響を事前に確認する
グループ内の貸付金の整理は、選ぶ方法によって税負担が大きく変わります。実行する前に、必ず専門家にご相談ください。